髙島利光 短歌作品集

[2019年3月]

春告げる川面の柳揺れる朝
   衿もとを立て学生急ぐ    

           光峰


[2019年4月]

幾とせを顧み祝う誕生日
   大空高く鯉のぼり飛ぶ     

明治より生き抜いてきた桜木よ
   わが家の安寧見守ってくれ    

10連休大盤振る舞い日々終えて
    質素倹約暮らしに戻り    

             光峰

 

[2019年5月]

静かなる鳴瀬のほとり夕の暮れ     
   家の明かりや川面に浮かぶ    

紫陽花の鮮やかな花見入る朝
   今日の予報を気にとめながら   

夕暮れの低空飛行目の前を
   あしたは雨かつばめ予報士    

              光峰

 

[2019年6月]

震災を知るか知らぬか山帽子
   節の便りを届けて来れし     

静かなる待合室やお昼時
   優しく響く看護師の声     

帰る時「また来るね」って手を握る
   親子の絆深く幸あれ       

              光峰

 

[2019年7月]

敗戦に永遠(とわ)の平和を誓うとき
   天まで届け民の願いよ      

介護職平和が故にある仕事
   お風呂の介助幸せの証し     

巡り来る母と逢えるや 盂蘭盆会
   何処の道を旅すことやら     

               光峰

 


[2019年8月]

「これからは年金だけじゃ暮らせない」     
    短冊にみる老後の現実     

盆も過ぎ施設行事のバーベキュー
   皆んな食欲いつもより増し    

鳴けよ鳴け夏の終わりのお昼時
   命を繋げミンミン蝉よ       

                光峰

 

[2019年9月]

気まま旅見知らぬ土地を訪ね居り   
   もてなしさり気爽やかな秋   

人生の喜怒哀楽生抜いて   
   敬老会に童顔笑増し   

潟沼のさざ波寄せる音静か
   硫黄のにおい秋は深まり   

             光峰

 

[2019年10月]

巡り来る秋のひととき夕の暮れ
   色づく柿を窓越しにみる   

裏山の匂ひ漂う栗の花
   ひと夏過ぎて今実りたり   

自然には勝てぬ水増しまた来たり
   泥にまみれる日暮れの早し   

             光峰

 

[2019年11月]

友の顔一面トップ朝刊に   
   道一筋の黄綬褒章    

憂いなし安全第一備えたる   
   早めに終えるタイヤ交換   

震災で家は流され妻見つからず
   息子と暮らすと互市の客    

            光峰

 

[2019年12月]

軒先のころ柿の実黒ずんで
   肌の疲れや鏡の向う        

待ちわびる聖夜の企画ページェント
   ケヤキの並木は人人人        

日めくりや時を刻みつ薄くなり
   無上の定め万物の流転    

              光峰 


[2020年1月]

嘘つかぬ体重計に表れる
   数字のなかに正月の影    

穏やかに六十路の坂を踏みしめる
   念(おも)いの馳せる朝は正月     

穏やかな年の初めの往診日
   「元気ですね」とDrの声     

              光峰


[2020年2月]

節分や夫婦合わせて百三十
   年を数えて豆食べきれぬ    

底冷えの吐く息白く吉田川
   静寂なりき悪夢は何処    

ウエディングベルの鳴る丘ワイキキの
   爽やかな風海の青さよ    

               光峰

 

[2020年3月]

平穏な感謝の日々に手を合わす
   節句の朝は眩しく蒼い    

上座敷春の先取り雛人形
   揚げ饅頭に櫻ういろう    

待ちごころホワイトデーの朝が来た
   孫からの声夜は更けゆく    

              光峰


[2020年4月]

幾たびの苦難乗り越え祝い日は
   紀壽の証しや満面の笑み   

一年ぶりの旬のご褒美たらの芽は
   うぐいすの鳴く吉田の川に   

わが家にも契りの如く櫻花
   コロナの自粛忘するひと時   

             光峰

 

[2020年5月]

幾年を重ねていても嬉しけり
   変わらぬ調べ飛ぶ鯉のぼり   

鳴子ダム雪解け水の蒼くして
   早苗の遺産大崎耕土    

長(なが)の年民の安寧願う日々
    誉や高き章(しるし)輝く   

             光峰


[2020年6月]

ありがとう母の恩師や百歳(ももとせ)を
   迎えし今日は笑顔の彰(あきら)   

ほろ苦き青春などあり暑い夜は
   ビールひと口染みる想い出   

利用者の笑顔と拍手全てなり
   施設慰問はコロナで途絶え   

                光峰


[2020年7月]

運気ある今日の暮らしと願をかけ 
   靴ひも結ぶ玄関の朝      
 
気高くて高嶺の花やコマクサに
   暫し見惚れるコロナも忘れ    

子(ね)の年の三人目となる百(もも)壽の日
     嬉し楽しの祝いの宴      

                 光峰

 

[2020年8月]

明け方の冷ややかな風流れ来る
   今日の始まりひぐらしの声    

戦争の傷癒えぬまま敗戦日
   静かに暮れるドームの鐘は    
 
穏やかに暮らせる日々の有難し
   浄(きよ)らな風にお盆を迎え    

              光峰

[2020年9月]

【挽歌】
病との闘い竭(つ)くやわが主
   無常の運命(さだめ)天界に立つ    


車窓から広がる平野大崎の
   稲穂は揺れる黄金色して    

朝まだき秋雨の音目覚むるや
   深々被る薄手の毛布    

            光峰


[2020年10月]

づくりの心のこもる辛子味噌
   お替り進む新米の飯    

稲刈りや秋たけなわのこの季節
   台風逸れよ神仏頼み    

朝まだき秋雨の音目覚むるや
   深々被る薄手の毛布    

            光峰

 

[2020年11月]

秋の暮れ孫生まれしの一報に
   悠(はるか)な道の幸を祈りぬ    

久々にトライクで行く紅葉狩り
   染まりゆくかなわれら夫婦も    

螽斯(きりぎりす)秋も深まり夜の更けて
   声は弱まり遠ざかるなり    

木枯しの風吹き抜ける舟形の
   鍋を囲みつ冠雪仰ぐ    

                光峰

 

[2020年12月]

日めくりの暦も薄くなりにける
   行く年過ごす静寂な雪    

街角の耳元流る聖歌隊
   人影まばらイブは過ぎゆく    

クリスマス若いつもりのジルバ曲
   息の途切れて筋肉疲労    

              光峰

 

[2021年1月]

明暗を忘却の日とする大晦日
   あしたの夢を託すあら玉    

天窓の下弦の月や朝まだき
   平穏無事の一年祈る    

あかあかと燃ゆる炎に手を合す
   皆の思いは疫病退散    

            光峰


[2021年2月]

うつ伏せの首をもたげて吾を見る
   孫の仕草に笑いは絶えず    

コンビニの恵方巻買いかぶりつく
   歳徳神(としとくじん)へ無言の祈り    

空白み白鳥の群れ飛んで行く
   至福のときは静かに過ぎる    

                 光峰

 

[2021年3月]

コロナ禍で遊びの達人段ボール
   もうすぐ入学東京の孫    

亡き母が祝いに戴く胡蝶蘭
   今年も咲きぬ十三回忌の春    

コロナ禍に櫻のつぼみ眺め居り
   産土神(うぶすながみ)に縋(すが)る思いよ    

                    光峰

 

[2021年4月]

待ちに待つ桜花の節に生まれ来る
   ふる里憶う人になれよと    

春本番美しき花数あれど
   待ち焦がれるやわが家の桜    

廃校の桜並木の校庭に
   行き交う人の笑みやこぼれる    

              光峰

 

[2021年5月]

澄み渡る皐月(さつき)に泳ぐ鯉のぼり
   共演舞台は真鯉に緋鯉     

孫たちの端午の節句に託す夢
   平和なれこそ囲む食卓    

幾年(いくとせ)を重ねていても嬉しけり
    童子に帰すや飛ぶ鯉のぼり    

                光峰

 

[2021年6月]

孫達のフェースタイムに癒されし
   六十路の初夏の一日は過ぎ     

ツーリング麦秋の波揺れる日や
   夕日に染まる舟形山よ     

紫陽花の乙女の如く花びらの
   雨のしずくに日毎色づく     

             光峰

 

[2021年7月]

梅雨空とコロナの行方浮かぬ日々
   仕事のペンは遅遅と進まず     

久々の休みの電車人まばら
   クーラーの効く快適シート    

笹の葉に終息願い暮らす日々
   祈りよ届け疫病退散    

明け方の雨の一間のひぐらしよ
   梅雨明け宣言ようやく来たり    

              光峰

 

[2021年8月]

史上初宮城に上陸台風一過
   遥か彼方へコロナは飛んだか    

国のため御袋を呼び弱冠兵
   憲法九条知らずに散りぬ    

盂蘭盆会わが家の蓮に好きな餅
   供えし迎ふ母十三回忌    

              光峰

 

[2021年9月]

ゆく秋の雨や虚しく頬過(よぎ)る
   泉下の社長小祥忌の朝     

邸中の金木犀や漂えり
   夕暮れ深く星流れ居り    

あけび食む旬の味覚の広がりぬ
   ススキは揺れてため息ひとつ    

              光峰

 

[2021年10月]

紅葉を湖面に映す潟沼の
   秋真っ盛り休息の午後

新米の季節になりし吾娘への
   搗き立ての味梱包急ぐ

芸術の秋に欠かせぬもみじ葉の
   色鮮やかに山飾り居り
                 
            光峰

 

[2021年11月]

娘より思いのこもる花一重
   窓の陽やわら秋は深まる

世の中の矛盾の壁と向かい合う
   孫の笑顔に癒されながら

秋雨の音や静かに降る夕べ
   冬は最早か毛布を被る

            光峰

 

[2021年12月]

初時雨喪中のはがき目を通す
   無常の定め募る寂しさ

寒空を窓越し眺め外出でず
   孫を抱きつ居間を散策

温顔な暮らしの日々や六十路旅
   微笑み返し絶えることなく  

             光峰

 

光峰[2022年1月]

餅雪を踏みしめながら雪を掻く
   温い吐く息元旦の朝

大寒の暦通りの冷える朝
   待ち遠しきや春の訪れ

デイルーム広きホールのひと時に
   さんさ時雨はめでたく響く

             光峰

 

[2022年2月]

恵方巻商戦最中(さなか)北北西
   運気に賭けて頬張る夕べ

早朝の白鳥飛ぶを眺め居り
   静かに流る平和な時よ

北の天満宮で求む枝垂れ梅
   芽吹きてわが家早春気分

            光峰

 

[2022年3月]

雛人形穏やかなりしデイルーム
   栄華を偲ぶ夕暮れ時よ

連日の戦禍の及ぶウクライナ
   春待つ聖堂凛として建つ

春うららマウスに興味孫だまし
   仕事にならぬ一日は暮れ

名残り雪餌を求めてお昼時
   つがいのカケス庭に戯る

断水の復旧完了無線の報
   ひねれば出るを常と思うな

             光峰


[2022年4月]

蕗のとう食卓飾る夕の暮れ
   程よい苦み食進むなり

満開の桜ライトに照らされし
   咲き競うなりコロナを他所に

夜桜にピンクムーンのコラボショー
   ロシアの空も等しく照らす

              光峰

 

[2022年5月]

一九四六年五月三日を忘るまじ
   熱き指導者天に召さるる

五月晴れ鳴瀬の歩道母として
   眺る山に残雪浮かぶ

白藤の甘い香りと鯉のぼり
   孫と戯る連休一過

「気を付けて」母の言葉にピースする
   子等の笑顔にバスは過ぎ行く

浅草の芋羊羹に舌鼓
   抹茶の泡や旨味を誘う 
          
               光峰

 

[2022年6月]

衣替え恥ずかし嬉し夏服の
   乙女心や白の眩しさ

蹲(つくばい)に写りし空の青さにも
    夏本番の近づく気配

捲(めく)る毎黄ばみは深く穂の先を
     渡るそよ風麦秋近し  

              光峰

 

[2022年7月]

矢のごとし光差し込む庭の園
   霧の途切れて薔薇や彩る

一つ咲きまたひとつ咲く百日草
   今年も楽し道端花壇

大の字の対角線に寝るベット
   深い眠りや奥方不在

戻り梅雨晴れの木陰の合間小間
   ニイニイゼミの声鳴き止まぬ

初夏(はつなつ)や産声上げる丑の刻
   皆が願ふは聡い世の人

順調に夏の兆しの陽射し受け育つ
   稲穂に泥水襲う

政(まつりごと)治山治水に命賭す
   翁の惨苦や未だ届かず

               光峰

 

[2022年8月]

巡り来る群青(ぐんじょう)の空ヒロシマに
   今日も語り部核は要らぬと

ヒロシマの悲劇を永遠(とわ)に忘れまじ
   被爆電車は街走り行く

敵艦に皇國(みくに)のためと散華(さんげ)せし
   消えぬ戦禍を語り継がねば

先人の歴史の遺産守るべし
   九条に忍び寄る足音

気がつけば戦場に居る平和ボケ
   安眠できぬ九条二項

迎へ火に麦わらを焚く庭の先
   揺らめき降りぬご先祖の霊

青春は密と唱えし監督の
   標(しるべ)の証(あかし)優勝旗に見ゆ

二十日盆過ぎし虫鳴く宵の口
   一日を終えひとときの凉

                    光峰

 

[2022年10月]

人の世を見守る御社(みやしろ)柏手に
   響(とよ)むや昼下がりのさば雲

手作りの心のこもる辛味噌に
   食は進みし看貫(かんかん)後目(しりめ)

三日月と明けの明星見渡すも
   今年は穫れぬとコメ農家の友

                   光峰

 

[2022年11月]

暮れ速き明るさ残る大空を
   彩りながら日は沈みゆく

秋風に揺られて散りしもみぢ葉や
   川の淀みに留めて居りぬ

穏やかな秋互市や三が日
   路上文化の活気漲(みなぎ)る

              光峰

 

[2022年12月]

早すぎる残る暦の一枚に
   最後の願い元旦の計

小春空喪中はがきの届きたる
   立冬の風しばし眺めぬ

ピラカンサ忙し集う小鳥たち
   命を繋ぐその赤き実よ

クリスマス神も仏もキリストも
   ケーキを囲み祝う団欒

一年(ひととせ)の数多の他念たずさえて
    明日への響き除夜の鐘聞く  

                 光峰

 

[2023年1月]

あらたまに思いを馳せる布袋尊
   世の太平に願いを籠めて

微笑めば微笑み返すデイルーム
   日々の暮らしの何気無きこと

古希近し余寒の寝床滑り込む
   有難きかな湯たんぽ添い寝

              光峰

 

[2023年2月]

立春を待たずほころぶ盆栽の
   梅一輪に団欒の酒

南南東目がけてガブリ恵方巻
   『うまい!!』の一言逃げ去る運気

介護棟夜は眠らず利用者の
   スノームーンにコールや響く

路地裏の花穂(かすい)膨らむねこ柳
   ツグミ飛び交い春はすぐそこ

                  光峰

 

 

[2023年3月]

ほろ苦く春を告げるや蕗の薹
   朝の食卓和やかに過ぎ

雛人形どじょう掬いに笑う門
   デイの節句の一日は暮れ

鬼潜む人の輩(やから)の腹の底
   そんな世の中生抜いて来た

バースデーカードと思い封開く
   介護保険に一喜一憂

古(いにしえ)のひな人形は凛として
   穏やかなりし栄華を偲ぶ

水ぬるむ白鳥見えぬ鶴田川
   北へ帰るや春はすぐそこ

              光峰

 

[2023年4月]

HbA1c高しの診断に
   ウオーキングで習慣チェンジ

春雨に濡れて短し桜花
   儚い時の音(ね)心の癒し

互市や久方ぶりの再会に
   話題は健康年金談義

                光峰


[2023年5月]

白藤の甘く漂う軒先の
   今日も一日清しい気分

孫たちの帰った後のわが家にも
   静かな時間有りと思うや

鯉のぼり五月の風を浴びながら
   泳ぐや孫の健やか願ふ

五月晴れ寝起きの孫をトラクター
   乗せて畑の満面の笑み

雪解けの水かさ増して鳴瀬川
   大海原に呼ばれて注ぐ

                 光峰

 

[2023年6月]

梅雨(つゆ)の節憂いの通り傘マーク
   ツーリングの旅やめの無念よ

雪解けの冷たき水と水芭蕉
   色鮮やかに季節を伝へ

雨の降る紫陽花ぬれる道すがら
   夏待ち遠し足止め見入る

訃報知る憂き世の定め常なれど
   痛む心の計りぞ知れぬ

6月の薔薇も霞むや花嫁の
   君しか見えぬ幸せゲット

                  光峰

 

[2023年7月]

ドック後の体重減に努めるも
   変わらぬ食は文化なりけり
 
今日も雨明日も雨かよ一日の
   心は重く生業(なりわい)の汗

待ちに待つ梅雨明けなるや明(あ)か時(とき)の
   蝉の競演目覚まし代わり

                     光峰

 

[2023年8月]

孫たちの成長を見る盂蘭盆会
   歳重ねるや吾も顧み

打ち水の飛沫の粒や頬ぬらす
   拭う仕草に色香漂ふ

孫たちと花火に観入る夏まつり
   思いを馳せるウクライナの空

陽が陰り年に一度の迎え火に
   戦火無き日々祈りを込める

夏祭り夜店にはしゃぐ子らの声
   ふるさとの夏足早に過ぎ

                   光峰

 

[2023年9月]

防災の日の呼び出し訓練心待ち
   着信音のメッセージ

酷暑耐え稲田広がる一面の
   うな垂れし穂刈り取りを待つ

参加者の手足は小さく揺れ出して
   敬老の日の余興沸き立つ

秋の陽の沈み呼ばるる晩御飯
   至福の時や天ぷらの味

初めての敬老の日のメッセージ
   そんな歳かと孫への笑顔

                  光峰

 

[2023年10月]

道すがら真紅の姿彼岸花
   斜陽の光射して吹く風

コーヒーの香りほのかに誘われて
   空は冷たき秋朝(あきあさ)の美味

秋の色コロンの香り夜の明けて
   金木犀の華やぐ季節 

                    光峰

 

[2023年11月]

晩秋の冷たい雨が頬伝う
   冬の間近な足音聞ゆ

車窓からまだついて来るお月さま
   孫のおしゃべり達者な夜更け

初霜に甘み増すかや洒落(しゃれ)柿を
   自歯に恵まれ噛める喜び

秋深く年に一度の健診の
   体重計に一喜一憂

伝統の人の賑わう互市や
   「翁」の偉業を育む文化 

                光峰

 

[2023年12月]

ピラカンサ代わる代わるに鳥集う
   赤き実求む庭の師走よ

風呂の蓋開けて漂う柚子一つ
   冬本番の疲れを癒す

クリスマス神も仏陀(ぶっだ)もキリストも
   グラス片手に目出度い夕べ

年末の大掃除にて発見す
   しばし足止め想い出の品

子等帰省年越し準備整いて
   除夜の鐘待つ新得のそば      

                 光峰

 

[2024年1月]

隔世の感の漂う新年を
   迎えて屠蘇に平和を託し

初春の鶴田の川にひかり満ち
   水面(みなも)に群れる白鳥の声

初詣はしゃぐ孫らに導かれ
   オモチャ売り場へなされるままに

松の内しあわせ気分夢を見た
   これぞ初夢一年の計

つくばいの水に映(うつ)りし南天や
   古希を迎える正月に映(は)え

                  光峰

 

[2024年2月]

コンビニの自分で買って食べるチョコ
   二月若者健気(けなげ)な姿

朝早く飛ぶ白鳥に魅せられて
   春の訪れ待ち侘びて居り

寒空に鬼追い出され何処やら
   春一番に凍えていぬか

豆まきで幸せ願うひと時や
   福は内今年は鬼も内

マリンバの如く会話のとき弾む
   豊かな夕べ舌鼓(したつづみ)打つ

                    光峰

 

[2024年3月]

晴れ姿巣立つ子等の学び舎に
   着飾る母よ百花繚乱

啓蟄の時季となるかや虫たちも
   春一番にたじろぐ姿

古希祝い五人の孫に囲まれて
   余韻に浸る至福の時間(とき)よ

春一番見えぬものとのお付き合い
   仕事帰りに点鼻薬買う

小雪降る寒気未だに残しつつ
   梅花眺めつ供養の参り

                  光峰

 

[2024年4月]

春爛漫街の装い変わる季(すえ)
   桜新緑新調スーツ

恒例のライトアップに汗流す
   思いを込めて桜ひとひら

春の空見上げて見るや薄明かり
   杉の花粉か隣りの黄砂

孫だまし青空深く過ごす日や
   桜吹雪に舞う鯉のぼり

散る様もやはり絵になる桜花
   己(おの)が人生まだ未完

                   光峰

 

[2024年5月]

高校生パンをかじりてスマホ見る
     髪を気にしつ始発の電車

薫風に乗って泳ぐや鯉のぼり  
     大空高く夢の宅配

幾とせを重ねていてもこの節は
     心の躍る飛ぶ鯉のぼり

柏餅食べて季節を噛みしめる
     一日ぶらり家に篭(こも)りぬ

連休の思い出列車走り去る
     陽射し眩しく車窓の日暮れ

                   光峰

 

[2024年6月]

道すがらのどを潤す湧き水や
   ひと息つけばうぐいすの声

灰色が青水無月に広がりて
   雨の季節や間近に迫る

雨に濡れ首(こうべ)を垂れる紫陽花の
   鮮やかな青暫(しば)し魅せらる

曲(ごく)水(すい)の宴雅びな日曜日
   古(いにしえ)の風ほのかに流れ

君くれし薄紫の釣鐘草
   自然(じねん)の息吹あふれこぼるる

                       光峰

 

[2024年7月]

梅雨時の雲の切れめを逃すまい
   麦の刈り取り一気に進む

明け方の蝉の合唱目が覚めて 
   今日も猛暑の予報が如く

ねむの木に歓喜花咲く日暮れ時
   撫でて眠らす幼き想い

獅子舞を踊る姿が目に浮かぶ
   恩師逝くとのメール届きぬ

天の川ゲリラ豪雨に苛(さいな)まれ
   鵲(かささぎ)来ぬや出逢い叶わず 

                         光峰

 

[2024年8月]

盆棚を吊りし迎えるご先祖の
   姿身近に香は揺らぎぬ

あれこれと理由をつけて後回し
   屋敷の庭は草の住みかか

猛暑にも働きバチや忙(せわ)しけり
   今日を限りと鳴く蝉虚(むな)し

猛暑日の真昼野良猫居場所なく
   空き家木陰で伸び切っている

加藤屋の冷やし中華に舌鼓
   鳴瀬の川の水嵩増しぬ         

                      光峰

 

[2024年9月]

台風の遠ざかりしや雨上がり
   庭の鈴虫鳴きはじめたり

脱ぎ散らす靴の揃えを諭しつつ
   孫と戯る一日は過ぎ 

澄み渡る青空見上げ深呼吸
   猛暑の日々は遠い日となり

爆夏の汗の滴る日は続き 
   すすき梅雨入りひと息つきぬ

秋彼岸母や上へと帰り道
   清明(さやけ)き空の飛行機雲よ
          
                       光峰

 

[2024年10月]

ひとめぼれ獲れたての味妻として
   都会に暮らす娘に届け

手づくりの心のこもるしそ巻に
   食欲の秋飯は進みぬ
 
昼ごはん金木犀の隠し味
   茶の間漂う秋の訪れ

知り合いのキバナコスモス咲き乱れ 
   わが家の庭に裾分の種

猛暑抜け秋到来と思いしや
   つるべ落としに空よ暮れ行く 

                      光峰